被害の拡大を防ぐ

木密地域不燃化と耐震補強

10月29日(水)台東区根岸の寿司店から出火、となりの居酒屋に延焼し店舗の外壁が崩れ、消火活動にあたっていた消防隊員と消防団員が重軽傷を負った火災がありましたが、命に別状無く不幸中の幸いでしたね。

現場は、国道4号線に面しており周辺道路も4m以上あるようで消防の車両が入れないといったことはなさそうですが、隣の建物との間隔が非常に狭く、おそらく既存不適格なのではないでしょうか。
現場周辺地図

今回火災が発生した地区は一部メディアでも報道されていますが、東京都木造住宅密集地域整備事業の実施地区です。

東京都木造住宅密集地域整備事業は、木造住宅が密集し特に老朽住宅の立地割合が高く、かつ道路・公園などの公共施設等の整備が遅れている地域において、老朽建築物等の建替を促進するとともに、道路・公園などの公共施設を整備し、防災性向上と居住環境の整備を総合的に行うことを目的とし、事業を行う区市町村に対して都が支援する制度です。

引用元:東京都都市整備局 東京都木造住宅密集地域整備事業

木造住宅密集地域とは、都市の市街地で木造住宅が密集している地域で、木密(もくみつ)地域とも言われます。木密地域には築年数が古く耐震基準を満たさない既存不適格建物も多く、これらの建物は、大地震が発生すると倒壊する可能性が高いと言われています。倒壊した木造住宅は道路をふさぎ、緊急車両が通行できなくなるだけではなく、火災が発生すると延焼拡大を招き、消火活動や避難が困難となり被害が甚大になると予想されています。自分が住んでいる地域がどういう状況なのか、危険性が高いのであればそれを踏まえ、どういった対策が取られているのかを知ることが重要です。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
HP:http://disapotal.gsi.go.jp/index.html

台東区では、防災対策として都市整備を推し進め住宅の建替えによる道路の拡幅を目指しているようですが、住宅所有者の高齢化や建替え前の面積維持が困難など様々な理由で進んでいないようですね。これは、他の木密地域でも同じ事がいえるのではないでしょうか。このような状況で、いずれ来ると言われている首都直下型地震が発生したら、想定されている、あるいはそれ以上の火災被害がでるかもしれません。また、火災による焼失を免れたとしても、現行の耐震基準を満たさないこれらの建物の多くは倒壊することでしょう。

阪神・淡路大震災で亡くなられた方の80%相当の約5,000人は木造家屋が倒壊し、家屋の下敷きとなり亡くなっています。特に1階で就寝中に圧死した人が多かったということから、家屋の倒壊を免れれば生存確率がグンと上がることになるだろうし、併せて火災の発生も抑えられるのではないでしょうか。

ところで、地震災害で家屋が全壊した場合、どのような金銭的支援を受けられるでしょうか?被災者生活再建支援法に基づく支援制度の内容は、内閣府の防災情報のページに掲載されていますが、概要は次の通りです。

自然災害により住家が全壊した世帯に対し、生活必需品や引越し費用として最高100万円の支給がなされる。また、2004年3月には法の一部が改正され、被災家屋のガレキ撤去費用や住宅ローン利子等として最高200万円が支給される「居住安定支援制度」が創設された。

引用元:ウィキペディア 被災者生活再建支援法

はたして300万円で住宅の再建はできるでしょうか?どう考えてもムリです。では、家屋が倒壊しないように耐震補強するにはどのくらいの費用がかかるでしょうか?

日本建築防災協会『木造住宅の耐震改修費用調査委員会』の発表資料には、次のように記載されています。

耐震改修工事は、100~150万円で行われることが最も多く、全体の半数以上の工事が187万円以下で行われています。

また、国や地方公共団体が行っている助成制度や融資制度などを使えば、それを差し引いた金額の負担となるため、実際に支払う金額はもっと少なくてすみます。

引用元:日本建築防災協会 木造住宅の耐震改修の費用

防災科学研究所では、建築基準法が大幅に改正された1981年以前に建てられた西明石の建売住宅を、兵庫県耐震工学研修センターへ移築し、2棟の同様な住宅を同時に加振し、補強無し住宅と補強有り住宅の大地震時の動きに違いが見られるかの検証実験を行っています。実験映像は、防災科学研究所 兵庫県耐震工学研修センターのサイトからダウンロードして視聴できます。

トップページ>研究内容>加震実験映像
【2】木造住宅 -在来軸組構法-(2005年11月)
11月21日 1995年兵庫県南部地震 JR鷹取観測波 100% 1回目

今年の6月3日(火)に閣議決定された国土強靱化基本計画に基づき、大規模自然災害が発生したときでも人命の保護が最大限図られるよう、密集市街地の火災対策や住宅・学校等の耐震化、建築物の長周期地震動対策等が『国土強靱化アクションプラン2014』に盛り込まれていますが、やるんだったら、ある程度の強制力を持って、国や地方自治体が費用を負担して耐震補強工事を推進すれば良いんじゃないかと考えます。

人がたくさん亡くなって、家屋が倒壊し住む家がなくなったところに支援金が支給されたところで・・・。それはそれでありがたいかもしれませんが、そもそも、死ぬことなく住む家があれば、悲しむ人も減り避難所生活を強いられることもなく、復興のスピードも格段に速いのではないでしょうか。いずれ起こると言われているのですから、大震災が起きてから手当てをするのではなく、減災への投資ということで被害の最小化につながれば、結果として国や地方自治体からの支出も減り、有効に税金が使われるんじゃないかなぁ、と思っています。

 

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