火災

火災に関する基礎知識 #1

火災のメカニズム

火災の定義と燃焼の3要素

火災とは、文字通り「火による災い」で、「火事」と呼ばれることが多いですね。また、一言で火災といっても、ぼやのように規模も被害も小さいものから、人命や財産を奪ってしまう大規模なものまで様々ですが、「火災」とは、どういう現象を指すのでしょうか。

消防庁では、

  • 人の意図に反して火が発生し、もしくは拡大すること(放火も含む)
  • 消火の必要がある燃焼現象であること
  • 消火のための消火施設または同等の効果があるものの利用を必要とすること

の3つの要素を満たすものを火災と定義しています。ただし、「人の意図に反して発生、もしくは拡大した爆発現象の場合は、3つの条件の有無にかかわらず火災とする」と付け加えられています。

では、燃焼現象とは何でしょうか?

燃焼(ものが燃える)には可燃性(燃えるもの)、酸素(空気など)、熱源(点火エネルギー)の3つの要素が必要で、これらを「燃焼の3要素」といい、ひとつでも欠けると燃焼は起こりません。

 

火災時の煙

火災で恐ろしいのは、火より煙です。

近年の火災事例を見ると、火災初期の煙の発生により逃げ場を失い、死に至るケースが多く発生しています。これは、以下のような理由によるものと考えられています。

  • 室内の内装材などに煙や有毒ガスを発生しやすい石油化学製品や建材が多用され、煙や有毒ガスの発生が増加
  • アルミサッシ等の高気密建具の普及により火災室内に煙が充満しやすい
  • 耐火構造の普及や防火性能の向上により発炎しにくい一方で、火災初期の煙の発生量が増加
  • 空調設備の普及により、火災階以外の階に煙が拡散しやすい

火災時の煙の流動は、出入口や廊下へ排出された煙は階段やエレベーターを通って縦方向へ拡散していき、室内の換気口や天井裏を通り隣室へ広がります。煙が階段などの上方向へ上がる速さは3~5m/秒で、人が階段を昇る速さの0.5m/秒よりはるかに速く、室内や廊下などの横方向へ広がる速さは0.3~0.8m/秒程度ですが、煙で視界が奪われ不安や恐怖で混乱している状況では逃げ遅れることも十分考えられます。

また、火災における煙の危険性は、燃焼によって発生するガスにより中毒症状を起こし、生命の危険をもたらすことにあります。最も危険なのが一酸化炭素で、血液中の赤血球にあるヘモグロビンとの結合の速さは酸素の200~300倍以上といわれ、酸素不足を引き起こします。その他にも火災時の煙により、避難の支障となる影響があります。

一酸化炭素 血液中のヘモグロビンと結びついて酸素を運ぶ働きをストップ
酸欠 ものが燃えると周りの酸素が失われる
炭素粒子 すすが発生し視界を遮るとともに、多量に吸い込むと窒息する
有毒ガス 石油化学製品が燃えると発生する
熱気 高温の煙を吸い込むことで気道や肺をヤケドし呼吸困難に

 

火災の種類と消火

火災が発生すると消火を行いますが、消火とはどういうことを指すのでしょうか。消火は「火を消すこと」ですが、正確には、燃焼の3要素の全部または一部を取り除くことをいい、燃焼の継続を絶つことです。一般的な消火の方法として

  • 除去消火 → まだ燃えていない可燃物(燃えるもの)を燃焼部分から切り離し、燃焼の拡大を中断する
  • 窒息消火 → 燃焼に必要な酸素(空気など)の供給を絶つ
  • 冷却消火 → 熱源(点火エネルギー)から熱を奪い、燃焼物を発火点以下に下げる

があります。また、一般的に火災は

  • 普通火災:木材や紙などの一般の可燃物による火災
  • 油火災 :ガソリンや天ぷら油などの可燃性液体による火災
  • 電気火災:分電盤や電気コンセントなどの電気設備による火災

に分けられます。

消火に際し、消火方法や消火器などの消防用設備等の選択を誤ると、油の飛散による燃焼拡大や感電など思わぬ二次災害を引き起こすことがありますので、火災の種類とその特性を正しく理解しておく必要があります。

 

火災時の行動特性

人は、突然襲ってくる火災による不安や恐怖、煙や熱による苦痛など生命の危機に直面すると、本能や感情に基づき危険を回避しようと衝動的になるなど、以下のような行動特性が見られます。

日常動線指向性 本能的に日常使い慣れた通路などを使って避難しようとする傾向
帰巣性 入ってきた経路を逆に戻ろうとする傾向
向光性 煙で視界が遮られたり照明が消えた暗闇で明るい方へ向かう傾向
危険回避性 目前の危機のみを回避しようと煙や炎などが見えない方向へと逃避する傾向
追従性 自らの判断ではなく多くの人が逃げる方向へ追従して逃げる傾向

また、人は自分が危機的状況にあっても、避難行動を取れない場合があります。その要因は、危険や脅威を軽視したり、事態を楽観視したり、自分だけは大丈夫と錯覚するような心理状態になるからです。

人は、危機的状況に遭遇したとき「こんなはずはない」と考えたり、生命の危険が予想される状況でも「自分は大丈夫」と考え自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまうことがあります。この心理的特性を「正常性バイアス」といいます。人は、危機的状況に遭遇すると強いストレスを感じます。しかし、本能的に強いストレスから避けようとするため、本当に危険な状態でも無意識のうちに「危険」と思わないようになってしまうのです。

一方で、「緊急事態なら周りの人がきっと大騒ぎをするはずだ。でも、誰も騒がないから大丈夫だろう」と大勢の中にいると周りに合わせようとすることがあります。この心理的特性を「多数派同調バイアス」といいます。人は、緊急時に周りに誰もいない場合は、自分の判断で行動を起こします。しかし、周りに人がいると安心感から避難行動が遅れる傾向にあります。また、無意識のうち互いに牽制し合い、自分だけが他と違う行動を取りにくくなり,他人の動きに左右されてしまいます。周りに人がいるから大丈夫なのではなく、人がいることで一緒に危険に流される場合もあるのです。それは、結果として逃げるタイミングを失ったり、せっかく逃げたのに引き返したりすることにもなりかねません。

このような心理状態は誰もがなり得る可能性があります。自分の命を守るためにもこれらの心理的特性を理解し、適切な避難行動が取れるよう意識しておくことが重要です。

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